秋はどこへ行ったんだろう。「夏って昔はこんなに暑くなかったよな」と毎年思うのと同じくらい、「秋って年々短くなっているよな」と毎年この季節になると思う。私は秋生まれなので、ってわけでもないが、季節の中では昔から秋が一番好きなのだ。なのに、夏がいつまでも悪あがきをしやがって、10月に入ってもずるずる気温の高い日々が続く。そのうち大きな台風が連続でやってきて、ようやく去ったなやれやれと思ったら、そこにはいきなり冬が立っているんである(立冬)。これが最近の気象パターンなので、「え?あれ?」という間に秋は終わってしまっている。楽しむことができない。秋の思い出は、10月10日が「体育の日」で祝日だったあの頃に集約されていて、そのあとはあまり思い出すことがない。神社の境内で黄色くなったイチョウの葉っぱを拾ったこととか、めちゃくちゃ練習させられた運動会用の組体操のBGMとか(その昔、運動会は秋の風物詩だった)、友達とおしゃべりしながら背中に感じてた秋の日差しのあたたかさとか。もう遠い昔だ。
そしてこの短い秋がはじまると、なぜだか不思議と岩崎宏美さんが聴きたくなる。別にファンだったわけではないが、大人になってこの人の歌を改めて聴くと、その恐ろしいまでの見事な歌唱力に愕然とする。私はストレートなラブソングの(あの頃の歌謡曲ってほとんどそうだけどさ)「未来」という曲が好きなんだが、一回聴いてみるといい。この曲をリリースした時、彼女は18歳だったのだ。とてもじゃないが、10代の歌唱力ではない。(もちろん作詞・作曲は 阿久悠先生と筒美京平大先生のゴールデンコンビ。そして歌詞の内容もいろいろな意味で愕然とさせられる。今なら炎上必至だ。)伸びやかで透明感のある声は、秋の高く澄んだ青空を思い起こさせる。そのイメージが強いので、Spotifyでもつい、聴き入ってしまうんである。
「♪あ~、あ~なたの未来はぁ、わたしぃ~とぉ~おなじ~♪」と、腹の上でねそべっている猫族に歌いかけながら、「ハロインのクッキーは魚グリルでも焼けるのか」を検索する、短い秋の一コマなのであった。